通りすがりの風景-1-

ふと目にしたさりげない風景が、なんとなく心に残ってしまう……、そんなささやかなワン・シーンを「通りすがりの風景」という統一タイトルで、不定期に書き綴っていきたいと思っています。

その第一回目は『幼児の訴え』

先日、大型ショッピングセンターに併設されているアミューズメント・スペースに、小学生の次男と甥っ子、そして姪っ子を連れて遊びに行って来ました。
コインゲームを楽しんでいる彼らを見守りながら、ベンチで休んでいたんです。

すると、そのすぐ目の前で、三歳くらいの男の子を連れた若いお母さんと、同じ年頃の女性がなにやら夢中になっておしゃべりを始めたんですよ。
学生時代の同級生でしょうか、久しぶりに再開したみたいで、本当にうれしそうに語り合っておりました。

男の子は最初、静かにお母さんと相手の女性の顔を何度か見比べていました。
そして、突然ひとりごとを言い始めたんですよ。
小さな声で、何を言っているのかよくわからなかったんですが、視線は一途にお母さんに向けられていましたので、「早くゲームをしよう」とか、「おうちに帰ろう」とか、そんなところでしょう。

ところがお母さんは、女性との話に夢中で、男の子の訴えには全然耳を傾けません。
男の子がかわいそうに思えてきたその時、
「おしっこ!」
って彼が大きな声で叫んだんですよ。
そのひとことで、お母さんの視線がようやく彼に注がれました。

「おしっこでるの?、ホント?」
普通ならそこでお母さんは女性に手を振って、男の子を急いでトイレに向かわせるところでしょうが、
「ホント?」
って、もう一度念を押したんですよ。
すると男の子は、
「出ない………、出なくなった」
と、ポツリつぶやきました。
「ウソついちゃダメよ、悪い子なんだから………」
お母さんはそうたしなめると、再び女性とおしゃべりを始めました。
その後彼は、ひとこともしゃべらず、そしておしっこを我慢している様子もなく、じーっとお母さんたちの話が終わるのを待っていました。

「おしっこ」と言えば、いつものようにお母さんが自分にコトを気にかけてくれる………、彼はそんな風に小さな頭で考えたのかも知れません。
その訴えが不発に終わった時、彼の心がどのように変化しているのか、本当に小さな変化だとは思いますが、妙に気になってしまいました。
ウソをついてまでもお母さんに振り返って欲しい………、なんとなく切なくなってしまいましたね。